ロンドンメンズトレンドVol.1 2045年の「シンギュラリティ」を見据えた未来派ワーク

2019-20年秋冬のコレクションから、トレンドになりそうなキーワードと、そんなムードが芽生えた時代背景、デザイナーの深層心理などを考える。初回から3回は、コレクション・サーキットの先陣を切ったロンドンメンズから、若手デザイナーの思いにフォーカスした。

2019年1月1日、「日本経済新聞」は新年最初の1面で「シンギュラリティ」に触れた。「シンギュラリティ」とは2045年までに起こると予想されている、人工知能(AI)が人間の脳を超えること。この言葉は現在、それによる人類の生活様式の変化なども指す言葉としても使われている。

それから‪4日後‬、日本から遥か彼方のロンドンでスタートした2019-20年秋冬メンズ・コレクションでも「日本経済新聞」同様、「シンギュラリティ」に思いを馳せたであろうクリエイションが広がった。

技術は加速度を増して進歩・進化しているから、19年の今の段階では、四半世紀先の未来なんて全然わからない。ロンドンの若手デザイナーは、自分たちが第一線で活躍しているであろう25年後の未来を見据えつつ、すでに混沌としている現代社会、その一因を担うスマホライフ、カオスだからこそ重んじるべきダイバーシティー(多様性)やインクルーシブ(包括性)の概念などをコレクションに盛り込んだ。

代表例は、「リアム ホッジズ(LIAM HODGES)」だ。「4次元の突然変異」と題したコレクションでリアムは、得意のワークウエアを複雑にアレンジした。デニムには全面7色のタイダイ、ストリートウエアはアシンメトリーなカラーブロッキング。ジャケットにシャカシャカナイロンの未来的カーゴパンツというコーディネイトなど、コレクションは洋服単体もスタイリングも複雑怪奇。比較的シンプルな「エレッセ(ELLESSE)」とのコラボウエアも、はっ水素材とスエットを切り返してスキーブルゾンを作ったり、その上に細かく塩の結晶の写実的プリントを加えたりと手が込んでいる。

バックステージのインタビューでリアムは、「僕らは今、突然変異の真っ只中。もはや誰のアイデンティティも定まっていないし、これまで“本物”とされてきたものさえ、今後その価値は怪しくなるだろう。オンラインとオフラインの境界は、完全に消滅した」と話す。彼は、「シンギュラリティ」を迎えつつある世の中や、スマホによって様変わりした生活、そんな時代の先頭を走るミレニアルズの是非や功罪は問わず、ある意味淡々と混沌とした現代、もっとカオスな25年先を見つめている。

現代のテクノロジーと未来の世界を見つめるデザイナーは、リアムだけに止まらない。「パリア ファルザネ(PARIA FARZANEH)」のショーには、ランウエイの代わりにベルトコンベア。モデルは流れに身を任せ、代わりにスマホで自分の顔を撮影する。意志に関係なく進んだ先には、PVC(ポリ塩化ビニル)で覆われた小さな部屋があった。

自撮りモデルは次々小部屋に入っていくが、最後のモデルは、なぜか部屋に入れない。そして会場は暗転。フィナーレで初めてモデルは能動的に歩き始め、ベルトコンベアの進行方向に逆らう形でバックステージに戻っていった。「ありふれた日常生活と、新たに誕生した障壁について考えた。『今、この瞬間を記録する』ことに必死な私たちは、いつの間にかアイデンティティを失い、『今、この瞬間を生きる』ことができなくなった気がする」と話す。

「ア コールド ウォール(A-COLD-WALL)」は、テクノ素材を多用し、くり抜いたり溶接のように繋いだり、工作もしくは実験のようなアプローチで未来的ワークウエアを生み出した。ランウエイの横には、真っ黒な水の中をうごめくダンサーたち。人間の肉体の美しさを示すとともに、時に国際紛争にさえつながる無知との闘いを表している。新たな素材やテクニックを用いることで、既成概念にとらわれるが故に生まれた社会の断絶に警鐘を鳴らす。

「シンギュラリティ」を意識した未来志向のデザイナーによるクリエイションは、「宇宙戦艦ヤマト」や「機動戦士ガンダム」に登場する宇宙船の乗組員のようなフューチャリスティックなワークウエアだ。テクノ素材やPVCを多用するほか、ポケットや裾周りに熱圧着の技術やシーリングテープを使用する。インナーは、ウィメンズでは先行して19年春夏に登場した、化繊で作るコンプレッションウエア風のピタピタなタートルネック。布帛ではなく、ハードなレザーやメタルで作る“形あるバッグ”がアクセサリーのポイントだ。

既存のストリートスタイルに未来的ムードを加えているので、取り入れやすい。ロンドンを飛び越え、19-20年秋冬のトレンド有力候補になりそうだ。

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